あたしは鏡を見ながら、指先でそっと眼帯に触れてみる。

 この金属質な感触の奥には、手術を終えたあたしの目があるんだ。

 ……亡くなってしまった人から奪ってしまった角膜を、移植した目が……。

「……」

 物思いにふけっているうちに洗面所が混んできて、あたしは急いで歯を磨いて口を漱ぎ、病室に戻った。

 顔も拭きたかったけど、点滴している手でタオルを濡らして絞るのはなんだか怖い。後でお母さんが病院に来たらやってもらおう。

 朝食を食べて痛み止めを飲んだ後は、診察時間まではなにもすることがない。

 当然テレビも読書も携帯ゲームも禁止だし、ただ黙って横になって天井を眺めていたら、寝不足のせいかウトウトしてきた。

 洗顔と朝食という朝のイベントを終えた病棟は落ち着きを取り戻していて、穏やかな空気が眠気に拍車をかける。

 知らず知らず右目の瞼がゆっくりと下りていって、あたしは再び眠りに引き込まれていった。


 ……あの見知らぬ少年が、また無音の夢の中にいる。

 グレーのカーペットの上に、ジーンズやシャツが何枚も脱ぎ捨てられているこの部屋は、彼の部屋だ。

 勉強机にはクシャクシャに丸められたプリントや筆記用具が散らばっていて、完全にスペースを埋め尽くしていた。

 それと、ちょっとエッチっぽい系の雑誌が何冊か置かれていたりして。

 黒いパイプベッドの足元に乱雑に捲られた羽毛布団の上に座って、あたしと彼は携帯ゲームをしていた。