どんどん遠ざかる彼の背中に向かって、手を伸ばしたり引っ込めたりしながら歯痒い思いに地団駄を踏んでいたら、不意に彼がクルリとこっちを振り返って、バチリと視線が合ってドキッとした。
「あのさ、お前さ」
「……え?」
「目ぇ大事にしろな。その目、お前だけの目じゃないから。じゃあな」
そう言うと彼は玄関前の階段をトントン軽快に駆け上がり、大きなガラス戸をガラッと勢いよく開けて校舎の中に駆け込んでいく。
一年生用のロッカースペースへ向かう姿はあっという間に遠ざかって、すぐに見えなくなってしまった。
「……」
あたしは両目と口をポカンと見開いたまま、彼の姿の消えたロッカースペースを黙って見つめていた。
しばらくの間そうして身じろぎもせずに立ち尽くしていたけれど、不意に強い風が低い唸り声を上げて吹き抜ける音が聞こえて、ハッと我に返った。
ようやく口を閉じてゴクンと喉を鳴らしたけれど、口の中はカラカラで飲み込む唾液も出ない。
いま現実に起こった出来事がいったいどういうことなのか、まったく理解できないけれど、それでもこれだけはわかる。
夢の世界の登場人物が、実際に存在していて、しかもあたしと同じ学校に通っている。
「あのさ、お前さ」
「……え?」
「目ぇ大事にしろな。その目、お前だけの目じゃないから。じゃあな」
そう言うと彼は玄関前の階段をトントン軽快に駆け上がり、大きなガラス戸をガラッと勢いよく開けて校舎の中に駆け込んでいく。
一年生用のロッカースペースへ向かう姿はあっという間に遠ざかって、すぐに見えなくなってしまった。
「……」
あたしは両目と口をポカンと見開いたまま、彼の姿の消えたロッカースペースを黙って見つめていた。
しばらくの間そうして身じろぎもせずに立ち尽くしていたけれど、不意に強い風が低い唸り声を上げて吹き抜ける音が聞こえて、ハッと我に返った。
ようやく口を閉じてゴクンと喉を鳴らしたけれど、口の中はカラカラで飲み込む唾液も出ない。
いま現実に起こった出来事がいったいどういうことなのか、まったく理解できないけれど、それでもこれだけはわかる。
夢の世界の登場人物が、実際に存在していて、しかもあたしと同じ学校に通っている。


