ちょうど空いていた洗面スペースに立って、あたしは鏡に映った自分の顔を見た。

 寝ている間に無意識に手を触れたりしないようにするための、大きな眼帯が手術した左目を覆っている。

 普通の眼帯とは違う、見慣れないメタル製の眼帯はひどくゴツくて、違和感があった。

 見るからに『あたし、手術しました』感が漂っていて、その物々しさに自分で気後れしてしまう。


 ……あたしは子どもの頃、角膜炎になった。

 角膜とは、目の黒い部分を覆っている透明な薄い膜のことだ。

 小学三年生だったとき、お母さんと一緒に遊びに行ったテーマパークの砂場で目に砂が入って傷がつき、細菌感染してしまった。

 遠出をしていて地元ではなかったことと、日曜日で病院は休みだったことも災いして、治療が遅れた。

 本来は透明であるはずの角膜がひどい炎症を起こして、白濁してしまったんだ。

 いろいろ薬物治療したけど強い濁りが残ってしまって、『視力を回復するには角膜移植するしかない』と言われてしまった。

 アイバンクに登録してから何年も過ごしているうちに、正常な右目に負担がかかり、右目の視力もどんどん落ちていく。

 コンタクトは体質的に合わなくて、眼鏡ではもう矯正がきかず、右目のレーシック手術を受けたけど左目が白濁している以上、いつまでも右目への負担は変わらない。

 悪化する一方の状況で、中学の卒業式直前に病院から唐突に連絡がきて、あたしは移植手術を受けることになった。