ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~

 そんな思案をしながらリュックを背負って歩き出したあたしは、玄関脇の桜の木の足元で思わず足を止めた。

 うちの高校の敷地に植えられている桜はこの一本だけで、その貴重な桜がいつの間にか咲き始めている。

 黒味の強い太い幹がすっくと立ち、青く晴れた空に向かって背伸びするように伸ばした枝についた蕾が、ふんわり緩んでいるようだった。

 手術を終えてまだひと月の左目は視力が安定していないから、日によって見え方にバラつきがある。

 けれど常に擦りガラス越しのようだった左半分の視界が広がって、180度に広がったパノラマの爽快感は胸がすくようだ。

 人様の不幸を代償にして手に入れた視力を、やすやすと喜んではいけないということは、よくわかっている。

 でも小学生のとき以来の圧倒的な視界の爽快さに、心の奥が熱くなるのを止められない。

 しばらくそうして、目の前一杯に広がる空の青色と、花の薄桃色に夢中で心を躍らせていると、正門の方から誰かが歩いてくる気配がする。

 桜の木からそっちへ視線を移したあたしの全身が、驚愕のあまり硬直した。