お母さんの笑顔を、そして家族の幸せを守るために、あたしは移植を決意した。

 この目が見えるようになって、お母さんが自分を責めることもなくなって、家族の間のしこりもなくなることを願って。

 その結果あたしの左目には、ドナーの犠牲と無念と、ドナーの家族の悲しみが宿っている。

 あたしは自分で望んだその罪を、一生背負って生きていくことを覚悟した。

 だから、決して泣いてはいけない。あたしが泣くことは許されない。

 笑うんだ。笑い続けて生きていかなければならないんだ。

「翠、寝不足なんでしょ? 少し眠ったら?」

 お母さんが点滴の管に気をつけながら、タオルケットを整えてくれた。

「なにも心配しなくていいの。お母さんがずっとそばについているから安心してね?」

「うん。ありがとうお母さん」

 笑顔でそう答えながら、あたしはふと、さっき見た夢の少年のことを思い出していた。

 なんだか不思議な夢だったな。同じ登場人物の夢を続けて見るなんて珍しい。

 あたしが見る夢は昔から曖昧で、目が覚めてしばらくすると、文字通り夢まぼろしになって記憶から消えてしまうことが多いのに、あの夢はこんなにはっきり覚えている。

 まるで現実に起こった過去の出来事の記憶を反芻しているみたいな、そんな感覚に近い。

 麻酔の影響かな? それに、なんで夢の中のあたしはあんなに焦っているんだろう?

 あの言葉を彼に告げることに、どんな重要な意味があるんだろう?

 それに、ちょっと悲しい言葉だったよなぁ。あの言葉……。