九月の下旬にもなれば、寒暖の差が激しい北国の山々は、もう紅葉の季節に向けて足踏みを始めている。

 緑色の山肌にポンポンと筆で重ね塗りをしたような、赤と、黄と、褐色の絶妙な配色具合がちらほら見える様は、ハッとするほど綺麗だ。

 学校の門沿いに植えられているイチョウも、少しずつ鮮やかな黄色に衣替えを始めていて、秋晴れの空にアクセントをつけている。

「これが自然のものだなんて、神様って本当にいるのかも。秋を実感するよね」

「紅葉で秋を実感するなんて、翠ちゃんたらロマンチストだね」

「なら千恵美ちゃんは、なにで秋を実感するの?」

「コンビニで売ってるパンプキン味のお菓子」

「あー、棚を埋め尽くしてるよね。ハロウィン仕様の限定食品が」

 あたしは千恵美ちゃんと一緒に、放課後の教室の窓から外を眺めながら明るく笑った。

 角膜移植手術を受けて、ちょうど半年が経つ。

 真面目に通っている定期検診も、そろそろ月一回ぐらいになる頃合いだろうか?

 毎日、目の健康管理に気をつけて生活しているし、主治医の先生との信頼関係もしっかりできているし、我ながら感心するほど経過は順調だ。

「おぉーい、小田川ー」

 教室の入り口の方から、あたしを迎えに来てくれた坂井君の声が聞こえる。

「もう帰るぞー」

「はーい。じゃあ千恵美ちゃん、また明日ね」

「うん、また明日。…………。」

「どしたの? 千恵美ちゃん?」

「それにしても坂井君ってさ、日頃こんなにマメなのに、どうしてまだ翠ちゃんに告白してこないのかねぇ?」