ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~

 本当のことを言えば、移植手術って方法を初めて教えてもらったとき、瞬間的に『それは嫌だ』って思った。

 移植は当然、ドナーの人の『死』が前提になっている。

 誰かの『死』っていう不幸のうえに、あたしの目が見えるようになるなんて、とても受け入れられない。

 それが事故死であれ、自然死であれ、『死』には変わりないんだもの。

 こんな薄い膜だけれど、人間にとってどんなに大事な物なのかを、あたしは身に染みてわかっている。

 大切な家族を失って悲しんでいる遺族が、その直後にそんな大切な物まで他人に奪われてしまったら、どれほど悲しい思いをするだろう。

 見知らぬ人たちの深い悲しみと、命の犠牲の果てにあたしの目が見えたって、そんなのちっとも幸せなことじゃないって思っていた。でも……。

「翠、なにか欲しいものない? お母さんにしてほしいことはない?」

 ベッドに横になっているあたしに、お母さんが聞いてくる。

「うん、ある。顔が洗えないから濡れタオルで拭いてほしい」

「ああ、そうね。待ってて」

 引き出しからタオルを出したお母さんがパタパタと病室から出ていって、またパタパタと急ぎ足で戻って来る。

 そしてあたしの顔を熱いタオルで丁寧に、とても優しく拭いてくれた。