あたしの目は、人の死と引き換えに得た物。

 自分の家族可愛さに、叶さんの命と遺族の苦悩を引き換えにしてしまったもの。

 こんなに罪深いことをしておいて、どうして思い詰めずにいられるだろうか。

「……」

 坂井君は黙り込んで、なにかを考え込んでいるようだった。

 小首を傾げながら熱心に思案してから、慎重に、訥々と言葉を紡いでいく。

「あのさ、それって視点の問題なんじゃないかなって、俺には思えるんだけど」

「視点? どういう意味?」

「うん。うまく説明できないんだけどな。……ところでお前、俺のばあちゃんに会うつもり、まだあるか?」

「え?」

 いきなり話題が転換して呆気にとられるあたしを、坂井君はひどく真面目な顔で見つめている。

「会った方がいいと思う。ていうか、会え」

「で、でもまだお母さんがいるんだよね?」

「お袋が帰るまで、どっかで時間潰そう。この先行った所に色々と店があるから」

 なんだか意味の通じない会話をした後で、問答無用で坂井君はあたしの手首を掴んでグイグイ引っ張っていく。

 夏の空気よりも熱い彼の体温が、手首を通してあたしの中にどんどん流れ込んできた。

 そのせいなのか、それとも事情をすべて話してしまったせいなのか、なんだかこれまでとはふたりの距離感が違って感じられる。

 坂井君がなにを考えているのかわからないけれど、少なくとも今だけは、坂井君の感情は叶さんじゃなくてあたしに向けられている。

 彼に引っ張られて歩きながら、なんの根拠もないのにそんな気がした。

 そのことがあたしにとって、この世で唯一の救いのように感じられた……。