「……なあ、犠牲とかってさ、なんでそんな風に考えるわけ?」

「なんでって、だって犠牲だからだよ」

「お前さっきから、奪った奪った連発してるけど、べつにお前が兄貴の目から角膜を強奪したわけじゃないだろ? 兄貴自身が提供の意思表示をしてたんだから」

「そうだけど……」

「だから、そんな思い詰めるなって。本人が望んでたことなんだから」

「じゃあ坂井君の家族は、コーディネーターさんから角膜提供の打診をされたときに、全員一致で万歳三唱で賛成できたの?」

 坂井君は言葉に詰まって、複雑な表情を見せた。

 かけがえのない人の、あまりに突然すぎる死は、家族にとってまさに気が狂わんばかりの出来事だろう。

 なのに呆然自失の悲劇に嘆く間もなく、『臓器を提供してもらえますか?』と打診されることになる。

 角膜提供は、ドナーからの全眼球摘出という方法で行われるのが一般的だ。

 その後は義眼を入れて丁寧に処置はされるけれど、思いもよらずに亡くした最愛の家族の目まで失くしてしまうことに、抵抗を覚える遺族も当然いる。

 事情によって様々な形はあるだろうけれども、遺された家族の心理的負担は計り知れないほど大きい。

 それは、坂井君だってそうだったはずだ。