「いまはまだ見えないと思いますよ? 角膜がむくんでいますから。視力回復には早くても一ヵ月はかかります。半年以上かかるケースもありますよ」
手術を受ける前に説明されていたことを、また先生が話してくれた。
それでも不安な様子を隠せないお母さんを元気づけるように、先生は優しい笑顔で励ましてくれる。
「慎重に、経過を観察していきましょう。ねえ小田川さん、一緒に頑張ろうね」
「はーい。大丈夫でぇっす。あたし頑張りまあーすぅ」
おどけて右手を高く挙げながら返事をするあたしを、お母さんが慌てて叱った。
「翠ったら! あんたはまたそうやってふざけて!」
「ははは……いつも楽しいお嬢さんですね」
ヘラヘラ笑うあたしを尻目に、お母さんたちは先生にペコペコ頭を下げている。
診察が終わって病室へ戻る間も、あたしはずっと笑いながら、目とは関係ないことばかりをしゃべり続けていた。
「病院の食事ってさ、やっぱ薄味なんだね。朝は和食なんだけど、パンの方がいいなー。カリカリベーコンと、淹れたてのアップルティーのセットで!」
「食欲があるのね。よかったわ」
「うん、モリモリ食べ過ぎて便秘になりそう!」
点滴スタンドをガラガラ引っ張ってベッドへ戻ったら、ちょうど看護師さんが「そろそろ点滴代えますね」と言いながら近づいてくる。
「免疫抑制剤と抗生物質の点滴は、もうちょっと続けますから。不便だろうけど辛抱してね」
免疫抑制剤の投与は、急性拒絶反応への用心のために必要不可欠だ。
角膜は、ほんの1ミリにも満たないような極薄の膜だけれど、それでも手術後に拒絶反応が起きる可能性を否定できない。
だってこの角膜は、あたしの角膜じゃないから。
他人から……亡くなってしまった人から奪ってしまった臓器だから。
手術を受ける前に説明されていたことを、また先生が話してくれた。
それでも不安な様子を隠せないお母さんを元気づけるように、先生は優しい笑顔で励ましてくれる。
「慎重に、経過を観察していきましょう。ねえ小田川さん、一緒に頑張ろうね」
「はーい。大丈夫でぇっす。あたし頑張りまあーすぅ」
おどけて右手を高く挙げながら返事をするあたしを、お母さんが慌てて叱った。
「翠ったら! あんたはまたそうやってふざけて!」
「ははは……いつも楽しいお嬢さんですね」
ヘラヘラ笑うあたしを尻目に、お母さんたちは先生にペコペコ頭を下げている。
診察が終わって病室へ戻る間も、あたしはずっと笑いながら、目とは関係ないことばかりをしゃべり続けていた。
「病院の食事ってさ、やっぱ薄味なんだね。朝は和食なんだけど、パンの方がいいなー。カリカリベーコンと、淹れたてのアップルティーのセットで!」
「食欲があるのね。よかったわ」
「うん、モリモリ食べ過ぎて便秘になりそう!」
点滴スタンドをガラガラ引っ張ってベッドへ戻ったら、ちょうど看護師さんが「そろそろ点滴代えますね」と言いながら近づいてくる。
「免疫抑制剤と抗生物質の点滴は、もうちょっと続けますから。不便だろうけど辛抱してね」
免疫抑制剤の投与は、急性拒絶反応への用心のために必要不可欠だ。
角膜は、ほんの1ミリにも満たないような極薄の膜だけれど、それでも手術後に拒絶反応が起きる可能性を否定できない。
だってこの角膜は、あたしの角膜じゃないから。
他人から……亡くなってしまった人から奪ってしまった臓器だから。


