ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~

 待ち合わせのバス停に向かって、えっちらおっちら歩くアスファルトの坂道には、道路沿いの塀の影が映っている。

 その黒さが、夏特有の立体的な雲の真っ白な輝きと、いかにも対照的だった。

 夏は光も影も、濃い。ラッパのような形の紫色の花を咲かせた、背の高いムクゲの木を見上げながら、あたしはワンピースの胸元を指先でつまんでパタパタと扇いだ。

 バス停に近づくと、グレーのTシャツとジーンズ姿の坂井君が立っているのが見えて、滅多に見られない私服姿に胸がドキンと疼く。

 でもまったく平静なふりを装って、あたしは元気に手を振りながら近づいていった。

「坂井君、お待たせ。バスまだ来てないよね?」

「おう、まだ大丈夫」

 ふたりでバス停に並んでバスの到着を待ちながら、密かにドキドキする胸と逸る呼吸を落ち着かせるのに、ひと苦労。

 ほぼ時間通りに到着したバスにふたりで乗り込んで、二十分ほど揺られて、老人ホームに到着した。

 車がたくさん停まっている駐車場を抜けて、あたしと坂井君は真っ直ぐ正面玄関へ向かう。

「まずは受付に行かなきゃならないんだ」

 入ってすぐの受付に面会許可をもらおうと近づいた途端、「あら? 望?」という声が聞こえて、あたしたちは立ち止まる。

 声をかけてきた中年の女性を見た坂井君が発した言葉に、あたしは冷水を浴びせられたように硬直した。

「母さん!?」