ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~

 あたしは坂井君の存在を特別に思っているけれど、坂井君はそうじゃない。

 彼にとって特別なのは、あたしの左目の角膜だけ。

 あたしのことを見ているわけじゃなくて、あたしを通して兄の存在を感じたいだけ……。

 ギュウッと絞られるような、切ない疼きにも似た痛みを胸に感じて、あたしは自分の両手を胸元に強く押し当てた。

 痛いのに甘くて、苦しいのに嬉しくて、満たされるのに喉が渇くような切ないこの感情の名前を、あたしは知っている。

 でもその気持ちは絶対に認めちゃいけない。

 この世であたしだけは、坂井君にそんな気持ちを抱くことは許されない。

 坂井君の大切な兄の死によって視界を得たあたしに、そんな権利はない。

 よりによってなぜ坂井君なんだろうと思うたび、悲しくて悲しくて泣きたくなるけれど、同時にそれは当然の成り行きだと納得もしている。

 この苦しみは、あたしが自分の家族の幸せを守るための代償なんだ。

 あたしは、自分で望んだ罪悪の罰を受けているにすぎない。

 だから求めてはいけない。認めてもいけない。

 自分で認められない以上、叶わないこの感情を憐れんで泣くことも許されない。

 あたしに許されるのは、ただ切ない苦しみと熱い痛みを抱えて、誰にも知られないように歯を食いしばって耐えることだけだから。

「早く正式な両想いになれるといいね」

 くったくなく笑う千恵美ちゃんに曖昧に微笑みながら、あたしは自分の席へ向かった。


 そして迎えた、次の土曜日。

 あたしは『友だちと宿題をする』と嘘をついて、家を出た。

 術後すぐの頃に比べれば、さすがに外出許可は緩くなってきて、お母さんからの監禁状態は解除されつつある。

 門限も午後四時から五時に伸びたし(それでも、今どきの高校生とは思えない門限だとは思うけど)、一時間おきにスマホでお母さんに連絡を入れる約束さえすれば、許してもらえる。

 でも……。

「ねえお母さん、この保護メガネ、そろそろ外してもいい?」

「絶対だめ」

「……はい」

 夏になってから、保護メガネをつけると顔に熱がこもって余計に暑い。

 できれば外したいんだけど、お母さんにとってこの保護メガネは御守りみたいになってしまっているから……当分の間は無理だろうな。