ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~

 叶さんの角膜を奪ってしまった負い目を感じながら、ご家族に会うのは精神的にかなりきつい。

 どうやら坂井君のおばあちゃんは、もう意識がはっきりしていないらしいからまだ会える気もするけど、これがお父さんとかお母さんとかだったら、あたしはとても耐えられないだろう。

「お前、平日は無理だよな? じゃあ次の土曜でいいか? 時間とかは後で詳しく決めよう」

「うん、わかった」

 予鈴が鳴って、あたしたちは話を中断して部室を出て教室へ向かった。

「小田川、荷物よこして。俺が持つから」

「ううん、いい」

 廊下を歩きながら、坂井君があたしのバッグを持とうとしつこく手を伸ばしてくる。

 けど、あたしはそれを拒否して足早に歩き続けた。

「ほら、よこせって。なに遠慮してんだよ」

「いいって。だってあたし……」

「なに?」

「……なんでもない」

 あたしは、とっさに息を詰めて口を噤んだ。

『だってあたしは、叶さんじゃない』

 思わず、そんな言葉を吐き出してしまいそうだったから……。

 唇をキュッと結んで頑なに拒否するあたしの態度に、坂井君も諦めたようで、そのまま黙って歩き続けている。

 微妙な空気で沈黙したまま、一組の教室の手前まで来た坂井君は、「じゃ、後で連絡するから」と言って自分の教室へ向かって行った。

 その姿を見送っているあたしに、千恵美ちゃんがいそいそと近づいて来てコッソリ耳打ちする。

「朝からラブラブですねぇ。いいですねぇ。お幸せそうですねぇ。羨ましいぜコンチクショウ」

「そんなんじゃないよ。坂井君は友だちだよ」

「友だちぃ? まだ『好きだ』って言ってもらえてないのぉ? あいつって結構ウジウジもったいぶった性格してんだね」

「だからほんとに、そんなんじゃないんだもん。坂井君は友だちなんだから」

 あたしたちと坂井君は友だち……とも、違うか。

 ドナー家族とレシピエントの関係は、とても友だちとは言えないだろう。

 だとしたらあたしたちの関係は、なんと呼ぶべきものなんだろうか。