ふたりだけに通じるその微笑みを見た途端に、心臓がギュッと音をたてた。

 両の頬骨あたりが直射日光に当たったようにカッと火照って、ジリジリ痺れる。

 坂井君の笑顔が眩しい。彼の笑顔を見られることが、本当に純粋に嬉しい。

 でもそれと同時にあたしの心には、桜祭りのときにも感じた動揺と不安が渦巻いていた。

 なぜ彼を見るだけで、こんなにも心が揺れてしまうんだろう。

 この気持ちの正体はなに? 叶さんの角膜のせいで、坂井君を特別視しているだけ?

 そして坂井君の微笑みは誰に向けられているの?

 ……あたし? それとも叶さん?

 彼があの優しい目で見つめているのは、誰なんだろう?

 仮にあたしに向けられているとして、それを素直に受け取ることは許されるの?

 彼のかけがえのない大切な兄の死という代償によって、この角膜を得たあたしなのに……。

 胸の高鳴りと、不安。混じり合わないふたつの感情が、心の中でぶつかり合って暴れている。

 それをどう収めればいいのかわからず、あたしは坂井君から目を逸らして、グループの横をそそくさと通り過ぎた。

 そして背中で、坂井君の存在と彼からの真っ直ぐな視線を、教室に入るまでずっと意識し続けていた。