ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~

『だから……ごめんね。ごめんね……ごめんね』

 何度もそう繰り返していたお母さんがやがて立ち上がり、鼻を啜りながらそっと部屋を出ていった。

 その足音と気配が完全に消え去るのを確かめてから、あたしは目を開けてゆっくり布団の上に身を起こした。

 そして片手で、まだ湿っている自分の頬と左目をそっと覆った。

 閉ざされた真夜中の薄暗い部屋は、空気がゆっくり流れる音も聞き取れそうなほど、シーンと静まり返っている。

 まるで別世界みたいになんの気配も、息遣いも感じられない。

 時間の感覚すら薄れる静寂の中、あたしは夜目に慣れてきた右目で、勉強机や、本棚や、カーテンをぼんやり眺めていた。

 ピンクの水玉と花柄のカーテンは、まだ左目が見えていた頃にお母さんと一緒に家具店に行ったとき、あたしが一目惚れした物だ。

 結構高かったんだけど、どうしてもこれが欲しくて、ねだってねだって粘り勝ちして買ってもらったお気に入りの品。

 ついに根負けしたお母さんが、

『本当のお値段のことは、お父さんにも誰にもナイショよ?』

 って笑いながら、人さし指を唇に当てていたのを今でもよく覚えている。

 あたしもすごく嬉しくて、自分の唇に人さし指を当てて『シー』って言いながら、お母さんと一緒にクスクス笑った。

 そんなことを思い出しながら壁掛け時計を見れば、もう夜中の二時を過ぎている。

 こんな時間に、誰にも気づかれないように、お母さんはこっそり部屋へ来たんだ。

 ひょっとしたら、昨日も来ていたのかもしれない。おとといも、その前も。

 眠っていて気づかないあたしに、伝わらない謝罪の言葉を告げ続けていたのかもしれない。