「……」
ふたりの間には、なんの言葉もない。
風に乗って聞こえてくる祭り会場の音楽はこんなにも賑やかなのに、なぜかその賑やかさが遠い世界のように感じて、物寂しい。
広く青い海の彼方から、風に押されて寄せる白く細長い波の音は、どこまでも単調で穏やかだ。
鼻の奥をくすぐる強い潮の匂いに全身を包まれながら、左目の痺れるような熱さが徐々に引いていくのを感じて、あたしはホッとしていた。
三津谷さんの話を聞きながら、そして心の中で三津谷さんに語りかけながら、あたしは今にもわぁわぁ大声で泣いてしまいそうだったから。
ジンジンと熱される目の奥から溢れ出しそうになる涙を、歯を食いしばって必死になって堪えていた。
あたしは、泣けない。
だってこの涙はあたしのものじゃなく、叶さんのものだから。
この記憶も、この感情も、すべては叶さんのものなのに、それをまるで自分のもののように泣いてしまうことは、あたしには許されない。
角膜を奪ったうえに、そんな大切なものまで叶さんから奪ってはいけない。
「兄貴と三津谷さんに、こんな事情があったなんて知らなかった。ずっと一緒に育ってきた兄弟なのに、俺の知らない兄貴の世界があったんだな」
しばらく波音を黙って聞いていた坂井君が、ようやくポツリと言葉を発して、あたしは隣の彼を見上げる。
「俺の知らない兄貴の世界、か……。それを兄貴が死んじまってから知るなんてな……」
まっすぐ海を見つめ続ける彼の目は遠くを彷徨っていて、あたしに話しかけてはいるけれど、彼が本当に話したい相手はあたしではないことがすぐわかった。
ふたりの間には、なんの言葉もない。
風に乗って聞こえてくる祭り会場の音楽はこんなにも賑やかなのに、なぜかその賑やかさが遠い世界のように感じて、物寂しい。
広く青い海の彼方から、風に押されて寄せる白く細長い波の音は、どこまでも単調で穏やかだ。
鼻の奥をくすぐる強い潮の匂いに全身を包まれながら、左目の痺れるような熱さが徐々に引いていくのを感じて、あたしはホッとしていた。
三津谷さんの話を聞きながら、そして心の中で三津谷さんに語りかけながら、あたしは今にもわぁわぁ大声で泣いてしまいそうだったから。
ジンジンと熱される目の奥から溢れ出しそうになる涙を、歯を食いしばって必死になって堪えていた。
あたしは、泣けない。
だってこの涙はあたしのものじゃなく、叶さんのものだから。
この記憶も、この感情も、すべては叶さんのものなのに、それをまるで自分のもののように泣いてしまうことは、あたしには許されない。
角膜を奪ったうえに、そんな大切なものまで叶さんから奪ってはいけない。
「兄貴と三津谷さんに、こんな事情があったなんて知らなかった。ずっと一緒に育ってきた兄弟なのに、俺の知らない兄貴の世界があったんだな」
しばらく波音を黙って聞いていた坂井君が、ようやくポツリと言葉を発して、あたしは隣の彼を見上げる。
「俺の知らない兄貴の世界、か……。それを兄貴が死んじまってから知るなんてな……」
まっすぐ海を見つめ続ける彼の目は遠くを彷徨っていて、あたしに話しかけてはいるけれど、彼が本当に話したい相手はあたしではないことがすぐわかった。


