ごめんね、キミが好きです。~あと0.5ミリ、届かない想い~

 三津谷さんのパーカーから、アラーム音が聞こえた。

 ポケットの中からスマホを取り出してアラームを止めた三津谷さんが、ベンチからスクッと立ち上がり、袖口でゴシゴシ顔を拭く。

「ごめん、もう戻らなきゃ。今日は本当にありがとう」

 目の周りと鼻を真っ赤に染めた顔で、それでも微笑んで言う彼の口元から、少しだけ白い歯が覗く。

「あんまり突然だったせいで、叶が死んだ事実を受け入れきれていなかったんだ。でもこれでようやく、現実と向き合うことができる気がする」

 海浜の遠い彼方を見つめる眼差しは、かつての記憶と、今の自分自身の心の奥をしっかりと見つめているようだった。

「苦い後悔も、取り戻せない悲しみも、そう簡単には処理できないから、その全部をすぐさま美しい記憶に昇華することはできないけど、俺は一歩前に進むよ」

 海の彼方から坂井君とあたしに視線を移して、三津谷さんはまた微かに微笑んだ。

「ちゃんと笑うためにね。……じゃあ、また」

 あたしたちに手を振って、三津谷さんは桜の宴に急ぎ足で戻って行く。

 その姿が松林の奥に消えてしまうまで、あたしと坂井君は黙って見送り続けていた。

 そして、どちらからともなく石のベンチに並んで腰かけ、さっきの三津谷さんのように海を眺める。