「玲……」



名前を呼ぶ空気みたいな声が夕暮れの宙を舞う。


大嫌いな玲央の唇はそれを阻止するかのように突然降ってきた。


そして、身動きも取れないまま立ち尽くすあたしの唇は、そっと塞がれていた。



「……っ、」



まるで時間が止まったみたいで。



玲央の睫毛を伏せた仕草も、頬を撫でるハニーブラウンの髪も、押し当てられた唇の柔らかい感触も、現実なんだって突きつけられる。



糖度なんて微塵もないキスの、苦味……。