「……お前がいてくれてよかった」 聞いたこともないくらい儚げで穏やかなその口調に、莉子の堪えきれない想いが優しく溢れるように。 「……っ、遅いよ」 ……と、子供のように両手で何度も涙を拭う莉子を見つめ、轟先輩は、心底困ったみたいに笑った。 莉子が泣いた姿を、あたしは初めて見たと思う。 中庭はグラウンドを見渡せる絶景で。 轟先輩の本当の居場所はきっと、陽の当たる空の下だった。 孤独な一匹狼は、その場所を夢に見ていたのかもしれない。 そして、莉子がずっと待ち焦がれた人……。