まだ夏みたいな生温い風が静かに止んだ。 この場の誰もがグラウンドに位地する帝王に目を奪われている。 空へと放たれたピストルの合図で始まった、二年の学年リレー。 「帝王がアンカーって……っ、」 「う、うん。誰も帝王が走ってるところなんか見たことないよね……?」 不安や驚きや好意や好奇………。 そんな不透明な言葉は身勝手に交わされている。 「大丈夫」 蹴散らしたのは、たった一人。 不意に目を見張った莉子の泡のように消え入りそうな声と供に、最後の走者、轟先輩がスタートを切った。