あの時君は、たしかにサヨナラと言った

「にやにやしていたかと思えば、今度は一人で頷いて。拓実って変なやつだな」

作業をする手を止めて、あぐらをかきながら首だけこちらに向けてふりかえる佐和子は、肩にほっぺの肉が押されて、たまらなくブサイクだった。

しかも、首にはどっかの商店の名前がプリントされたタオルをぶらさげ、服そうもスターウォーズのTシャツにハーフパンツ。

数分前、真奈からきたラインには、

(お風呂あがりナウ!スッピンヤバッ!!)

のメッセージとともに、髪の毛にタオルを巻きキャミソールの上半身にピースサインした画像が添付されていた。

スッピンは、やばいどころかめちゃくちゃ可愛くて、ちょっと眉毛が薄いとこまで愛嬌があって、たまらなかった。

同じ女なのにこの差はあんまりだと思っていると、

「何だよ、オラの顔になんかついてるか?」

佐和子が眉間にしわを寄せた。


「目と鼻と口」

「それ、全然おもしろくないぞ」

俺のギャグをさらりと受け流すと、佐和子はまた作業に戻った。

「なぁ、ずっと思ってたんだけどさ。お前、何で自分のこと、オラって呼ぶわけ?」

後ろ姿の佐和子は一瞬手を止めたが、ふりかえることなく、

「だって、オラはオラだから」

とだけ答えた。

本人に、変なやつ。

せめて愛嬌があれば可愛いげがあるのにとも考えたが、佐和子がぶりっこしたり、きゃぴきゃぴとはしゃぐのを想像したら、ひどくグロッキーな気分になった。