あの時君は、たしかにサヨナラと言った

「まだ、武藤さんと話してたかったのにぃ」

真奈が足をパタパタさせる。

俺だって話してたいよ。

オヤジの頭をシャンプーしているより、可愛女の子と話してる方が楽しいに決まっている。

真奈のことは入社当時から可愛と思っていた。でもなかなか二人きりで話をする機会がなくて、だから、残念でたまらなかった。

「あ、そういえば真奈、武藤さんの連絡先知らなかったぁ。良かったら、ライン交換しませんか?」

願ったり叶ったりだ。

俺は、ポケットから携帯を取り出すと素早くライン交換をした。

そこでバックルームのドアが開いて、坂上店長が真奈に言った。

「熊切さん!まだなの?そろそろカラーの流しに入ってくれない?」

「わかりましたぁ」

真奈はまだ半分ほど残っているパスタに蓋をすると、俺に目配せした。

「じゃあ、ライン待ってますね」

真奈が携帯を掲げウィンくする。

胸がトクンと、波打った。

これがときめくって感覚だったかなぁ?なんてしばらく感じたことのない感情にふわふわしたまま仕事に戻った。