あの時君は、たしかにサヨナラと言った

「ほぅら!やっぱり彼女じゃないですかぁ」

パスタをすすりながら、真奈は、ほっぺたをふくらませた。

「彼女じゃないって!」

「じゃあ、その同居人て男の人なんですかぁ?」

「そ、それは…」

言葉に詰まった。確かに同居人は女だけれど、女として意識したこともなければ、恋愛関係に発展する相手でもないと説明したところで、わかってもらえるはずもない。

男と女が1つ屋根の下で暮らしていると聞けば、誰だって、恋人同士、或いは、男女の関係があると考えるのは当たり前のことだ。

「なぁんだ、つまんないのぉ」

真奈は、オリーブオイルでてらてらと光った唇を尖らせた。

「いとこ…いや、はとこなんだ!」

反射的に、俺は、そんな事を口にしていた。

「はとこ?」

「そ、そう。ばあちゃんの兄弟の孫!親同士がいとこってやつ」

「おばあちゃんの…親同士が…」

真奈は、はとこ同士という関係を理解できないようだったので、

「ようは、親戚だよ」

と言い直した。

「本当ですかぁ?」

「本当、本当。妹みたいなもんだよ」

「妹ねぇ」

なんだか納得していないようだったけれど、これ以上真奈は、追求してこなかった。

そこから、真奈の話は坂上店長に対する不満にシフトし俺は、真奈を慰めた。

「ごめん。俺、先に出るわ」

永遠に終わりの見えない真奈の愚痴に付き合っている間も客は絶え間なくやってくる。多分、坂上店長はまだ休憩に入っていないはずだった。