あの時君は、たしかにサヨナラと言った

「おはようございまぁす」

店の準備が整い、朝礼を始めるというとき駆け込んできたのは、美容のアシスタント熊切真奈だ。

真奈は18歳で、高校を卒業したばかり。店でも一番若い。

「遅いよ、熊切さん。他のアシスタントはもっと早く来て開店準備してるの。スタイリストよりも遅く来るなんてもっての他だって何度も言ってるでしょう!」

店長の坂上恵美子の声がバックルームから響くと、他の従業員たちの顔に、苦笑いが浮かんだ。

きっと真奈は、ほっぺたを膨らませながらうつむいているだろう。そのくせ、また明日も同じようにぎりぎりの時間にやってくるのだ。

「言い訳しないの!」

一際大きな声が響き、バックルームのドアが勢いよく開いた。すでに整列している他の従業員たちの前に立つの坂上店長の顔はこの上なく不機嫌そうだ。

38歳の坂上店長は独身で浮わついた噂の1つもない。

理美容の免許を持ち、腕もピカイチ。

恐ろしく地味で、恐ろしく厳しく、数少ない創立メンバーだから、彼女より歳上のベテランからも一目置かれている。

化粧気のない顔に、きりっと髪の毛を1つに結んだ坂上店長は、仕事一筋だ。

尊敬はするけれど、女としては終わってるなと思う。

「じゃ、朝礼を始めるわね」

坂上店長が言うと、真奈がうつむき加減でやって来て輪に加わった。

坂上店長は、うつむく真奈を睨んでいる。どうやら遅刻の言い訳が、逆鱗に触れたようだ。

確かに真奈は、いつまでたっても学生気分が抜けず、甘ったれているところがあるけど、とびきりの美少女だから、男性陣は、つい許してしまう。

そこが、坂上店長はじめ、他の女性スタッフからもひんしゅくを買うのだけれど