あの時君は、たしかにサヨナラと言った

料理がうまくて、綺麗好きで、しかも気が利く。

こういう子と付き合ったら幸せなんだろうなと、毎日思う。

ても俺は、そんな佐和子に恋愛感情を抱けない。

なぜなら…。

「オラ、もう寝る」

佐和子は文庫本を閉じると、立ち上がった。

「皿は洗わなくていいぞ。明日洗うから。水につけておいてくれれば」

そう言いながらぽてぽてと2階へ向かう佐和子の背中に、「おやすみ」と言った。

立ち止まり、振り向いて「おやすみなさい」と佐和子も返し、今度こそ部屋へ向かった。

パタンと、佐和子の部屋のドアが閉じた音を聞きながら、あれで見た目がもう少しよけりゃなぁと、ため息がでた。

ビール飲み過ぎの中年のようにぽんと突き出たお腹。

はち切れそうに丸い顔にくっきりの二重顎。

ほっぺたの肉で圧迫されて細くなった目には牛乳瓶の底みたいに厚い眼鏡をかけていて、ヘアースタイルはざぎさぎにカットされたおかっぱ頭。

正直言って、佐和子はブスだ。

しかも、自分のことを「オラ」と呼ぶ。

いくら性格が良くても、そんな佐和子を女として見るのは無理だった。