あの時君は、たしかにサヨナラと言った

「ありがとな」

お礼を言うと、佐和子は、本を見つめたまま頷いた。

俺が佐和子に食費として渡しているのはわずか一万円。にも関わらず、こうして、毎晩飯を作ってくれる。昼飯にお握りを2つ用意してくれる。

佐和子は料理がうまい。

美咲と暮らしていた頃、俺は、男のくせに便秘がちだった。外食や惣菜や店屋物が多かったせいだろう(それでも美咲に食わせてもらっていたのだから文句は言えない)。

でも、佐和子と暮らしてから、あれほど悩んでいた便秘から解放された。

佐和子の料理には、野菜がふんだんに使われている。

農家へ手伝いに行っているらしく、そこで、米や、野菜や果物をもらってくるのだ。加えて、裏の畑では、夏野菜が大豊作。それらを有効に使い、少ない食費で佐和子はご馳走を作る。

「それから、布団もサンキューな」

部屋の前に置かれた布団からはお日様の匂いがした。佐和子が干してくれたのだ。

料理のほかにも、佐和子は家事全般を引き受けている。俺の部屋を除く家中の掃除も佐和子がしている。

「佐和子と結婚するヤツは幸せものだな」

俺の言葉は聞こえているはずなのに、佐和子は本から顔をあげず返事もしなかった。

でも、よく見ると耳まで赤く染めている。

照れているのだ。