あの時君は、たしかにサヨナラと言った

立ちっぱなしでむくんだふくらはぎをマッサージしていたら、つい長湯しすぎてくらくらした。

キッチンでは、佐和子がかいがいしく動き回っている。

どうやら、今夜はカレーのようだ。食欲のそそる香りに、口の中にヨダレがあふれた。

「湯加減はどうだった?」

「ああ、よかったよ。でも、あの色は何?新しい入浴剤?それにしては薬臭かったけど」

湯船は茶色くにごり、漢方薬のような匂いがした。薬湯だろうか。

「ああ、あれはドクダミだ」


「ドクダミ?」


俺の目の前に、大盛りのカレーライスが置かれた。グラスに注がれた水も。カレーには、ズッキーニや、なすや、カボチャがごろごろはいっている。全部裏の畑で取れたものだ。

「ドクダミの葉っぱはな、皮膚病にいいんだそうだ。だから、もらってきた」

言いながら俺の向かいに座ると、佐和子は文庫本を広げた。

「乾燥させたものをな、ネットに入れて浮かべておいたんた。ドクダミ茶として飲むこともできるんだぞ。手伝いに行ってる農家から聞いて、もらってきたんだ」

ページをめくりながら話すその顔には何の感情も読み取れない。

俺の手には細かな水泡がたくさんあって、所々膿んだり、亀裂がはいっている。

薬剤や、シャンプーのしすぎによる手荒れ。いわゆる職業病ってやつだ。

強烈な痒みと痛みが交互にやってきて、ひどいときは夜も眠れない。

佐和子は、そんな俺を気づかってドクダミ湯にしたのだ。