あの時君は、たしかにサヨナラと言った

「あの、その、ルームメートってどんな奴なんですか?あ、もしかして、俺と同じ卒業生とか?」

「いや、違うよ。彼女は卒業生なんかじゃない」

ん?彼女?今、彼女って言ったような…。

カンペーちゃんは、チラシの裏側にボールペンで地図を書き始めた。カンペーちゃんのマンションからその家までの道のりのようだ。

「あの、カンペ…。いや、先生いいですか?」

カンペーちゃんは、ペンを走らす手を止め、俺を見つめた。目尻の皺が、愛らしかった。

「彼女…なんですか?その同居人と言うのは」

カンペーちゃんは、それがどうしたと言うように軽く頷くと、またペンを走らせた。出来上がり間近の地図は、おそろしく単純なものだった。

「あの、それはいいんでしょうか?その相手の女性は…」

せっかく住む場所を確保したと安心したのに、新たな不安に胸がちりちりした。

もし、相手の人に拒絶されたら、やっぱり、後からやって来た俺は、そこには住めないだろうから。

しかし、そんな俺を無視するようにカンペーちゃんは言った。

「桐島佐和子。21歳」

「え?」

「武藤君のルームメートだ」

キリシマサワコ…。21歳。

なんだか、美人そうな名前の響き。それに歳も近い!

今度は期待で胸がちりちりした。

「その人、かわいいっすか?」

下心丸出しの俺の問いに、カンペーちゃんは言った。

「ああ。とっても綺麗な子だよ」