それから私は走るのをやめた。
部室の前のベンチで足を抱えて、みんなの練習風景を眺めていた。


いつもはあんなに輝いて見えるグラウンドは、最近は全く輝いていない。
たった一人の男のせいなのか、なんなのか…

もしかして私も和泉に生き霊飛ばしてて、その影響が来てるんじゃないかとまで思えてくる。


「よう、走んねーの?」


「………なんだ、香坂か。」


「悪いな、春翔じゃなくて。」


「…和泉はもう話しかけてこない。
話しかけてこられても、虚しくなるだけだし。」


あの告白も、もうすっかり無きものになってる。
………当たり前かもしれないけどさ。

和泉は毎日優衣ちゃんとラブラブな日々を送ってるから。


「あ、そうだ。
明日から部活休みでしょ?数学教えてよー。」


「はぁ?友達は?」


「基本的にみんな勉強できないんだよね。
美乃里は頭いいんだけど、私のアホさ加減に嫌気がさしてもう教えてくれなくなったんだもん。
それに私の友達の中じゃ香坂がダントツで頭いいし。
ね、いいじゃん。」


「…まぁ英語教えてくれんならいいけど。」


「あぁ、そんなのお安いご用だよ。」


「宮下ってなんで英語だけできんの?」


「英語だけって失礼だね。ホントのことだけど。
昔ね、私ア「祥也サボってんなよ!」


………遮られたし。


「今休憩だろ。」


「俺はやんの!祥也いなかったらできないだろ!」


「はいはい。」


こうやって私が香坂と話してると、ほとんどの確率で和泉が来る。
だけど、和泉の目が私に向けられることはない。
目が合うことは一切ない。


「じゃーな、宮下。」


「うん、頑張ってねー。」