奏の瞳が揺れていた。
当たり……なのかな……。
それまで睨むように私を見ていたのに、今は揺らした瞳を見られまいと目を伏せている。
あくまでも、心の中に踏み込ませてくれないみたい。
その防御の姿勢を崩して先に進みたい私は、さらに昔の話を続けようとした。
しかし、先に口を開かれてしまう。
「思い出したくないと言ってるのに、困った子だね。これ以上、喋らないでくれるかな……」
奏の左腕は顔横に突き立てられたまま、右手は私の顎先を摘んだ。
綺麗な顔が一拍で距離を縮めてきて、形のよい唇が……私の口を塞いだ。
驚きすぎて、目を閉じることもできない私。
ぼやける茶色の瞳と数センチの距離で見つめ合う。
心臓が十六連符で脈打ち続け、今にも壊れてしまいそうだった。
唇を合わせていたのは、数秒のわずかな時間。
それでも、そのキスは私から問いかけるべき言葉と決意を奪い去り、唇が離された後には脱力してその場にズズズと崩れ落ちた。
どうしてキスを……。
奏は私を残して通路を出て行き、またすぐに戻ってきた。
その手には私のバッグが握られていて、隣に立つと、膝の上に落とされた。
「今日のカフェラテは奢ってあげる。だからもう来ないで。もし来たら……次はキスじゃ済まないよ」


