だから、今度は私の番。
奏の力になりたいのだという気持ちを伝えたかったのに、低い声に遮られてしまった。
「覚えてるよ……五歳の綾のこと」
「え、本当⁉︎」
覚えてないと言ったのに、本当は記憶に残っていたのかと驚き、嬉しくなった。
しかし、ぬか喜びに終わる。
苦虫を噛み潰したような顔をして、奏は低く鋭い声で言った。
「覚えてるけど、思い出したくないんだ。
だから、綾が想い出話をしようとしたら拒否してた。
記憶の扉を固く閉ざして、思い出さないようにしてたのに……」
記憶の扉?
それってやっぱり、あの白い世界にあった扉のことだろうか……。
「とにかく、ピアノの話も昔の話も、今後一切やめてほしい。思い出したくーー」
「どうして思い出したくないの?」
今度は私が奏の言葉を遮った。
思い出したくないから、とにかくやめろと言われても納得できないし、したくない。
話を終わりにされないよう、目の前の不機嫌そうな瞳に矢継ぎ早に問いかけた。
「思い出したくない理由を教えて?
プロのピアニストになって、私をデビューコンサートの特別席に招待するって言ったから?
夢の原点が、五歳のあの夏だから?」


