奏 〜Fantasia for piano〜


「ああいうの、やめてよ。
俺が嫌がると分かっていて、わざと言ったの?」


切れ長の二重の瞳が幅を狭めて、私を見据えていた。

ちょっと怖いけど……逃げたくない。負けたくない。

奏から話を聞かないと、先に進めないから。

心を奮い立たせて、強気に答える。


「ワザとだよ。
どうしてピアノの話をしたらダメなのか、教えてよ。教えてくれないと、また同じことをするかもしれないよ?」


そんなに睨んでも、無駄だよ。

奏から絶対にピアノを辞めた理由を聞き出すと、決めたんだから。

どうして教えてくれないのだろうと、寂しがるばかりじゃなにも変えられない。


私は奏のことが知りたい。

知って、力になりたい。

迷惑に思われたとしても……。


「なんでそんなに俺に構うのかって顔してるね……。それはね、奏が私の恩人だからだよ」


「恩人?」


「うん。奏は忘れてしまっても、私は覚えてる。五歳の夏に助けてもらったこと。
森の中で迷子になっていた私を、奏はピアノで導いてくれた。それだけじゃなくて、親に捨てられたと絶望していた心も救ってくれた。だからーー」