「よかったなんて、嘘言わないで!
奏の真似して弾いただけなのに。でも完璧に真似できない。奏には追いつけない。私には才能がないから。
奏は私と違うよ。大きな手、高いテクニック、心を揺さぶられるようなキラキラした音、奏はプロのピアニストになるべき人なんだよ。
それなのに、どうして辞めちゃったの? ねぇ、教えてよ、奏!」
一気にまくし立てた後は、シンと静まり返る。
店内に流れていた音楽はいつの間にか消されていて、私がピアノを弾いている間に、お客さんが止めたのかもしれない。
「え、香月くんもピアノ弾けるのかい?
プロ目指してたの?」
事情を知らないマスターが沈黙を破り、戸惑うように声をかけていた。
奏がやっと振り向いて、私と目を合わせてくれる。
その瞳には明らかに、苛立ちがにじんでいて……。
怒らせる覚悟はしていたから、目を逸らしたりしない。
鍵盤上の右手を握りしめて、奏を睨み返した。
教えてくれない奏が悪いんだよ……。


