優しい褒め言葉と励ましに、お礼を言うこともできず、じっと奏を見つめていた。
目を合わせてくれない……。
「仕事に戻ります」と背を向ける奏。
暖簾に手をかけ、今にも出て行きそうだった。
いつもそうやって、すぐに背を向ける。
まるで俺の心に踏み込むなと言うかのように。
白い扉に閉じこめている奏の心を、私は見てきたよ。
五歳の奏のピアノの音は生き生きと輝いて、純粋で美しかった。
才能に溢れた奏の音楽は、多くの人に聴いてもらうべきだと思う。
奏だって、それを夢見てフランスまでピアノを学びに行ったはずなのに……どうして諦めてしまったの?
教えてほしいと思うのは、私のワガママだろうか。
なにか辛く苦しいことがあったのなら、力になりたいと思うのは、迷惑だろうか。
奏の心が見たかった……ワガママで迷惑だと言われても……。
右手に力を込め、鍵盤を叩くと、不協和音が大きく響いた。
「わっ!」とマスターが驚いて、奏は暖簾に手をかけた姿勢で動きを止めた。
ついに我慢できなくなった私は、奏の背中に想いをぶつける。


