奏 〜Fantasia for piano〜


カップの中のカフェラテが半分ほどに減ったとき、すっかり顔なじみになったマスターが、小皿を手にやってきた。


「やあ、いらっしゃい。さっきジンジャークッキーを焼いたんだ。
いつも来てくれるから、サービスするよ」


コトリと置かれた小皿には、丸型のクッキーが三枚乗っている。

「ありがとうございます!」とお礼を言って、早速一枚を口に入れた。


まだほんのり温かく、サクサクと歯触りが気持ちいい。

甘さとバターのコクに、生姜の香りと辛みがアクセントになっていて、とても美味しいクッキーだった。


私が食べている様子を、マスターは目尻にシワを寄せて嬉しそうに見ている。

それから、こんなことを聞いてくる。


「さっき、こんなふうに指を動かしていたけど、お嬢さんはピアノが弾けるのかい?」


見られていたんだ……。

その問いに頷いて、五歳からピアノを習っていることを話し、「コンクールはいつも予選落ちの下手くそですけど」と、自分の実力を正直に付け足した。

アハハとおかしそうに笑われてしまい、恥ずかしさに赤くなる。