再会してから今まで、この写真を見せなかった。
昔の話をすると、なぜか奏が不機嫌になるから。
しまったと思っても、もう遅い。
写真を見た途端に、奏の表情がスッと変わった。
あれ……不機嫌じゃなくて、なんと言えばいいのだろう……。
怒っているふうではなく、感情を消してしまったような無表情。
茶色の瞳は薄いベールをまとったように曇り、視線は写真に向いているのに、見えていないのではないかと思ってしまう。
そうだ、確か……再会した日、ピアノの話を振ったときも、突然こんな顔になった。
まるで心がここにないような、そんな顔……。
奏の様子を窺いながら、写真をそっと回収して、手帳の間に挟み直す。
すると奏も、いつもの彼に戻った。
「ごゆっくりどうぞ」と心のこもらない声で言われ、写真についてはひと言も触れずに背を向けられる。
やっぱり、昔のことは思い出したくないのかな。
それとも、五歳の記憶と共に、心の一部を白い扉の向こうに閉じ込めているから、あんな顔をするのか……。


