奏 〜Fantasia for piano〜


カウンター席には先客がいるので、最初と同じ窓際のテーブル席に座る。

注文は聞かれない。

いつも頼むのはカフェラテで、それを分かってくれているのが、ちょっと嬉しかった。


数分して運ばれてきたカフェラテに、今日はウサギの絵が描かれている。

熊や猫、ライオンの日もあって、今日はどんな絵だろうと、いつもワクワクさせてもらっている。


作ってくれた奏に「わぁ、今日も上手だね!」と褒め言葉を口にした。

初日もウサギだったけど、今日のウサギは別物。

満月を見上げるウサギの全身が描かれていて、横にススキと月見団子まで添えられていた。

それは愛用の手帳の表紙絵にも似ていて、テンションが跳ね上がる。


ゴソゴソとバッグから手帳を取り出し、「ね、この絵と似てるよね!」と見せたら、テーブル上に写真が一枚、ハラリと落ちた。

手帳に挟んで持ち歩いている宝物の写真には、五歳の頃の私達がいる。

六角形のあの部屋で、大きなグランドピアノの椅子に並んで座り、無邪気な顔して笑っている写真……。