奏に会えると思ったら、自然と頬が緩んでしまう。
扉を開けると、ドアベルがカランコロンと、どこか懐かしい音を立て、私の存在を奏に知らせてくれた。
カウンター席には、男性の先客がふたりいた。
奏はそのふたりに珈琲を出している最中で、それが済むと、入口に立つ私の方へ歩いてきた。
『また来たの?』とは、言われない。
その言葉は通い始めて三日間聞いたけど、四日目からは『いらっしゃい』と迎えてくれる。
今日も少々呆れたような声で「いらっしゃい」と言ってくれてから、クスリと笑われた。
「汗、流れてるのに、どうして上着を羽織ってるの? 脱げばいいのに」
あ……。
予備校内で羽織ったカーディガンを着たまま、走って来てしまった。
早く奏に会いたくて、脱ぐのを忘れてた……。
もっともなことを指摘されて、恥ずかしさに赤くなる。
モソモソとカーディガンを脱ぐと、「お好きな席にどうぞ」と言われ、奏はカウンターの裏へ戻っていった。


