でも梨奈を始め、他の難しい大学を目指すクラスメイト達はみんな夏期講習を申し込んでいたから、釣られてしまったのだ。
『絶対はないから、やれることはやっておけ』と、お父さんに言われたことも、ここにいる理由かも。
真面目に講師の説明を聞く一方で、早く終わらないかと、ソワソワした気持ちにもなっている。
時刻は十六時二十分。
後十分したら講習は終わりで、奏のバイト先に行けるから。
あれからアコールに日参している私。
予備校とはひと駅分の距離しかなく、いつも終わってから地下街を小走りに、アコールに向かっていた。
「はい、それでは今日の授業は終わります。
みなさん、また明日」
待ってましたとばかりにバッグに勉強道具をしまうと、教室を飛び出した。
夏空はまだ青く、夕暮れの気配はない。
眩しすぎる太陽から逃げるように地下にもぐり、人波を縫うように駆けていった。
長い地下歩行空間を通った後は、また地上に出て、大通りから横道に、横道から路地に入る。
すると、高層ビルの谷間で古めかしい喫茶店が、今日も私を待っていてくれた。


