マスターと呼んでいるんだ。
じゃあ、私もそう呼ぼうかな……。
そう思いつつ、クラスメイトではなく、彼女と言われたかった……と心に呟いてしまい、その直後に赤面した。
なに考えてるのよ、私。
奏は初恋の人だけど、今はそういうんじゃなくて、奏になにがあったのかと、知りたいだけなんだから……。
店内には静かに、クラシック音楽が流れている。
ピアノではなく、オーケストラの演奏で、この曲はモーツァルトの交響曲第三十八番、ニ長調、『プラハ』。
有名な曲だから、聞いたことがある。
第一主題はバイオリンが同じフレーズを繰り返す。
この後になにか素敵なことが起きるのではないかと思わせるようなシンコペーションに、胸がトクトクとときめいて、嬉しい気持ちになる。
マスターの好みなのか、店内にいる間、クラシックしか流れなかった。
焦げ茶色の木目の、落ち着いたトーンでまとめられた店内は、クーラーが心地よく効いて涼しい。
奏が淹れてくれた温かいカフェラテが美味しくて、飲み干してしまうのがもったいなくなる。


