奏 〜Fantasia for piano〜


慌てて注文して、店主がそばを離れても、心はソワソワと落ち着かない。

奏が私のために、カフェラテを作っている。

カウンター席に座ればよかった。
そうしたら、作る手元が見えたのに……。


程なくして、トレーに白い珈琲カップを乗せた奏がやって来た。

鼓動が早鐘を打ち鳴らす中で、目の前に静かにカップが置かれる。

珈琲に注がれたミルクの泡に、上手なウサギの絵が描かれていた。


「わっ、可愛い!」


でも、このウサギ、なんだか怒っているような……。


「ごゆっくり、どうぞ」と心のこもらない声がした。

そのまま背を向けられそうで、慌てて話しかける。


「奏、えーと……ここでバイトしてるんだね」

「知ってたから、来たんじゃないの?」

「ち、違うよ。偶然で!」


前もって調べて、わざわざ来たのだと思われたくなくて、つい語気を強めて反論してしまった。

しかし、茶色の瞳は訝しげ。

無言で非難されているような気がして、肩を落としてボソボソと説明を追加する。


「本当は……途中まで偶然で。
地下鉄を降りたところで見かけて、後をつけちゃって……ごめんなさい」