奏 〜Fantasia for piano〜


カフェラテに絵を描くというのは、ラテアートのことだろう。

描いてくれる若い子って、もしかして……。


気づきかけるのと同時に、奏がカウンター奥の暖簾をくぐって出てきた。

水色のシャツの上に、店主と同じ黒いエプロンを着ているということは、ここでバイトしているみたい。

そう言えば昨日、遊びに誘うクラスの女子に、バイトを理由に断っていたことを思い出した。


奏は私を見て、目を見開くほどに驚いていたが、すぐに驚きを消して、カウンター内で仕事を始めている。


『あ、偶然だね!』とは言えなかった。

後をつけてきたと、きっとバレているんだろうな……。

家や学校の近くでバッタリというのはあり得そうだけど、街なかの目立たない路地にある喫茶店で偶然を装うのは、やっぱり無理があるよね……。


私に気づいても、なにも声をかけてくれない奏に眉をハの字に傾けていたら、「お嬢さん?」と店主に問われて我に返る。


「あ……すみません。それじゃ、ええと、カフェラテをお願いします」