奏 〜Fantasia for piano〜


奏が入っていった店のドアにゆっくりと近づき、店の前でしげしげと外観を眺める。

古いけれど、隣の居酒屋と違い、リフォームされたような小綺麗さがある。

二階部分は薄汚れた縦板張りの外壁なのに対し、一階部分は赤レンガふうの外壁が貼られていて、目地の部分にはまだ白さが残っている。

木目のドアの上には、緑色のビニールの日差し。

そこに白字でアコールと書かれていて、コーヒーカップの絵も描かれていた。


路地に向かって、小さな窓がふたつ並んでいる。

そこから店内を覗けそうだけど……と思っていたら、内側から急にドアを開けられて、ビクリと肩を揺らした。


「お嬢さん、いらっしゃい。
営業中だから、入っても大丈夫ですよ?」


ニッコリと微笑み、声をかけてきたのは、丸眼鏡をかけた中肉中背の男性だった。

白いTシャツにベージュのスラックス。

その上に店名が小さく入った、黒いエプロンを着ている。

短い髪は三分の二ほどが白髪で、目尻と額に深いシワ。

年齢は七十半ばくらいに見える。