奏 〜Fantasia for piano〜


終業式の翌日。

今日は午前中から、宏哉の応援で野球観戦の予定。

夏の高校野球は地区大会が進んでいて、今日は準々決勝の日。

てっきり春と同じく初戦敗退かと思っていたのに、『俺、今絶好調!』と宏哉が自慢する通りの嬉しい結果となっているようだ。


本当は今日から予備校の夏期講習を申し込んでいたので、そっちに行くつもりだったけど……宏哉に何度も『観に来て!』とお願いされ、梨奈にまで『行ってあげなよ。私も付き合うから』と言われては、頷くしかなかった。


試合開始は十時半。

袖なしワンピースの肩から指先までに、日焼け止めクリームをたっぷり塗った私は、試合開始の一時間前に家を出て、今、地下鉄に乗ったところ。

球場は市内の端にあり、地下鉄を二本乗り継がなければ着かない、少し遠い場所にある。


自宅の最寄りの駅から、四駅先の乗り換えの駅で一端下車すると、人の流れは二方向に別れた。

改札に向かう人々と、別の路線に乗り換える人の流れだ。

私は乗り換えの方へ……と思ったとき、視界の端に見知った人の姿を捉えてハッとした。

奏だ……。