迷惑そうな声で断り続ける奏に、女子のひとりが面白くなさそうに文句を言う。
「高三の夏は一度きりなのに、受験勉強ばっかりの夏休みなんて……。後で思い出したときに虚しい気持ちになるよ?」
そうだ、そうだと賛成する思いと、いや、高三の夏はやっぱり勉強を頑張らないと、受験に失敗したときに後悔するのでは……という、ふたつの思いが交錯する。
「ねー、行こうよ」「一回だけ」と、押せ押せの彼女達に、奏は諦めたような溜息をついた。
もしかして、誘いに乗る気ではないかと焦ったが、どうやら違うみたい。
「びっしりバイトを入れてるんだよ。俺、大学行かないから、受験勉強で忙しいわけじゃない」
大学に行かないんだ……。
じゃあ、卒業後はなにをするのだろう……。
「外国に戻るの?」
「いや、日本で就職先を探す」
「えー、なんで? 頭よさそうなのに、もったいない。うちの高校、一応進学校だから、就職組は少ないよ? 専門学校も行かないの?」
私が聞きたいこと以上の質問を、彼女達はぶつけていた。
奏は面倒くさそうに、「これ以上学びたいことがないから進学しない。早く家を出て自立したい」と説明し、最後は「悪いけど、放っといてくれる?」と、怒りを押し殺したような、冷たく静かな声で言った。


