奏 〜Fantasia for piano〜


夏休みの開放感で「ヒャッホウ!」と叫んでいる男子に、「明日、買い物に行かない?」と遊ぶ約束をしている女子。

部活に入っている人は、夏休み中も大会や練習で忙しい人もいれば、一学期いっぱいで引退となり、少し寂しそうに帰り仕度をしている人もいる。


奏は……いつものように、真っ先に帰ろうとしていた。

前のドアから出て行こうとしている彼を引き止めたのは女子三人で、取り囲むようにして笑顔で話しかけていた。


私は急いで後ろのドアから廊下に出ると、前のドアに近づく。

なにを話しているのか気になって、ドア付近の四人の会話を、廊下側からこっそりと聞いていた。


「無理」とひと言、奏の声が聞こえた。


「えー、一日ぐらい、いいじゃない。
海に行こうよ。花火大会でもいいよ?」


予想通りというか、夏休みの遊びの計画に、奏を巻き込みたいようだ。


気持ちは分かる。
私だって、奏と遊びたいもの。

でも今の関係性だと断られるのが分かっているから、誘えない。

勇気ある彼女達が羨ましくも、やめてよと言いたい気持ちがした。