奏 〜Fantasia for piano〜


椅子がカタンと音を立てる。

教科書を手に立ち上がった奏は、流暢な英語を口にして……教室内に女子の溜息や、「すげー!」と驚く男子の素直な感想が聞こえた。

数行の英文に続いて、参考書とは違う、自然な日本語に訳す奏。

彼が着席すると、先生まで感嘆の溜息をついていた。


「イギリス英語のイントネーションね。
留学先はイギリスだったかしら?」

「いえ、フランスです。
英語も少しは使っていたので……」


奏が話せる外国語は、フランス語と英語ということか。

もしかすると、他にもあったりして……。

私なんか、六〜七年習っても、少しも英語を話せないのに、すごいよね……。


そういえば、他の授業でも、奏に不自由している様子はない。

向こうとは教科書もなにもかも違うだろうに、ちゃんとついて行っている。

陰で、一生懸命に勉強しているのかな……。


受験はどうするつもりだろう?

卒業した後の進学先は、日本の大学?


奏の背中を見つめて、心の中で問いかける。

聞きたいこと、教えてほしいことがたくさんあるんだよ。

だから、奏……もっと私と話してよ……。