そうだったのかと納得しかけたが、直後に、自分に呆れて溜息をつきたい気分になった。
私はなにを真剣に考えているのだろう……。
あれは夢の中の出来事で、現実じゃないのに。
奇妙な管理人のいる白い世界なんて、あるはずないし、切り離した心の一部が住んでいる部屋も扉も存在しない。
「バカバカしいこと、考えちゃった……」
誰にも届かない小さな声で呟いて、思考を現実に沿わせようとした。
でも、気持ちの何割かは、まだあの夢を信じようとしていて……。
もしもの話だけど、あの世界と扉が存在するなら、夢の中で思ったように、奏を助けてあげたい。
かつては私もあの世界のお客様だったと、管理人が言っていた。
扉を開けて出て行く気持ちにさせてくれたのは、奏……。
今度は私が、奏の心を、あの扉から出してあげたい……。
板書もせずに考え込んでいたら、「次の英文を読んで、和訳して下さい」という先生の言葉が耳に届き、ハッと我に返った。
また当てられるのでは……と焦ったが、私ではなく、「香月くん」と、奏が指名された。


