奏 〜Fantasia for piano〜


思わず、奏の茶色の瞳をじっと見つめると、小さな溜息をつかれた。


「綾、こういうのは、やめた方がいい」

「あ、ごめんね。嫌だった?」

「俺が、というより……」


奏の右手の人差し指が、廊下側を差していた。

そっちに視線を向けると、机、七〜八個分離れた席から、面白くない顔をしてこっちを見ている宏哉に気づいた。


「綾の彼氏が睨んでるから、やめた方がいい。
それとも、ヤキモチ焼かせる作戦?」


勘違いされていることに驚いた。

さっき、宏哉とじゃれ合っていたのが原因だろうか……いや、じゃれ合っていたわけじゃなく、じゃれつかれていただけなんだけど……。


「違うよ! 宏哉はそういうんじゃなくて、ただの友達だから、ヤキモチなんてーー」


奏に勘違いされるのは、絶対に嫌。

ついムキになって否定したら、途中で言葉を遮られる。


「ふーん、まあ、どっちでもいいけど。
俺は無用な戦いはしたくないだけだから。分かるよね?」