なにを聴いているのだろうと、ウズウズした興味が湧いていた。
ピアノソナタ、管弦楽三重奏、それともオーケストラか……意外と、日本のポップソングだったりして……。
なんにしても、弾くのをやめても、音楽を聴くのは好きだということだよね……?
興味に加え、ここが話しかけるチャンスだと思い、自分の席に座らずに奏の机の横に立った。
「なに聴いてるの?」と話しかけたら、彼の視線が私に向く。
「別に」
別にって……答えになってないよ……。
私と話す気がない様子に、ムッとした。
「私にも聴かせて?」
思い切って手を伸ばし、奏の左耳のイヤホンを取り上げて自分の耳へ。
すると……。
「あれ? なにも聞こえない……」
イヤホンの長さには限りがあるので、顔の距離は四十センチほどで、私は中腰になっている。
自分が大胆なことをしている意識はあったはずなのに、このときには既に飛んでいた。
なんの音も聞こえないイヤホンを、どうしてつけていたのか……。
もしかして、音楽を聴いているフリをすることで、話しかけ難い状況を作っていたのだろうか?
それでも私は、話しかけてしまったけど……。


